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手塚治虫の戦争体験を描いた『紙の砦』から戦争を学ぶ! #手塚治虫

この記事は、手塚治虫の『紙の砦』を紹介しています。戦時中に体験したことをもとに描いた戦争漫画など「自伝的」作品が6本収録されています。また、戦争漫画は、公式サイトにて無料で閲覧ができます。

書籍紹介

概要

手塚治虫は「戦争体験を伝えなければならない」という想いで、多くの戦争をテーマにした作品を残しています。
彼の青春時代は第二次世界大戦の最中で、開戦時の1939年には11歳、終戦時には17歳でした。その頃の経験を元に描かれた作品『紙の砦』『すきっ腹のブルース』『どついたれ(抜粋)』がこの本には、収録されています。

参考サイト:手塚治虫と戦争

収録タイトル

  • がちゃぼい一代記
  • 紙の砦
  • すきっ腹のブルース
  • トキワ荘物語
  • という手紙がきた
  • 動物つれづれ草
  • どついたれ(抜粋)

作品紹介

紙の砦

あらすじ

終戦の前年、昭和19年は出版統制令により、限られたものしか出版できない時代でした。マンガなんて、もってのほかです。
美術部の大寒鉄郎は、そんな中、ひそかにマンガを描いていました。しかし、らくがきを見られ、軍事教練で教官に睨まれてしまいます。その結果、特殊訓練所へ送られ、後に軍需工場で働くことになってしまいました。
この話にはフィクションも含まれていますが、手塚治虫が実際に経験したことが元になっています。

おもな登場人物

大寒鉄郎

南野中学校美術部。彼は手塚治虫をモデルにしたキャラクターです。
名前の読みは「おおさむ てつろう」。手塚治虫の苗字と名前を逆にしてアレンジした名前です。

 岡本京子

宝塚音楽学校の生徒で、軍需工場の倉庫部に動員された彼女は、大寒鉄郎と再会した。オペラ歌手を目指していたが、空襲で顔に大きな傷を負ってしまう。岡本京子は架空のキャラクター。

参考サイト:虫ん坊 2014年3月号(144)

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すきっ腹のブルース

あらすじ

『紙の砦』第2部です。手塚治虫をモデルにした主人公、大寒鉄郎の戦後の物語が描かれます。戦争が終わり、解放感に浸る間もなく、食糧難に直面します。生き延びるため、大寒は他人の畑から芋を盗んだり、進駐軍アメリカ軍)の兵士に似顔絵を描いて菓子をもらったりして過ごします。生きるための新たな戦いが始まるのです。

おもな登場人物

大寒鉄郎

手塚治虫をモデルにしたキャラクター。

 河原和子

新聞社に勤める女性。偶然、大寒のマンガを見つけ、大寒がマンガの仕事を始めるきっかけを作る。大寒とは恋仲になるが・・・・・・。岡本京子同様、河原和子も架空のキャラクター。

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どついたれ(抜粋)

あらすじ

この作品は、未完の長編『どついたれ』から、手塚治虫をモデルにしたキャラクターが登場する部分を抜粋したものです。
昭和20年3月の大阪大空襲。高塚修(手塚治虫がモデル)は、被災者を誘導するため火の海となった大阪の街を歩きます。そこで、空襲で親を亡くし泣き崩れる小さな女の子を見つけました。
説得しようとしても、女の子は泣いて動きません。その時、どこからか甘いにおいが漂ってきます。においをたどるとそれは菓子工場からで、焼けた砂糖が飴になっていたのです。

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手塚治虫の戦争経験

戦地には行っていない

太平洋戦争が終わるまで、日本では満20歳の男子に徴兵義務がありました。終戦の年に17歳だった手塚治虫には徴兵される義務はありませんでした。終戦が昭和20年なので、徴兵された人はほとんどが大正生まれだったことになりますね。手塚治虫の3歳年上、大正15年(大正は15年まで)生まれの私の母方の祖父ですら、戦地に行く前に終戦を迎えています。

また、大阪大空襲後の7月に強制徴兵を免れるために、手塚治虫は阪大の医学部に入学しました。ですが、結局、翌月には終戦を迎えていますので特に影響があったというわけではありません。
手塚治虫が徴兵される年齢になる前に戦争は終わったのです。

大阪大空襲を経験

大阪にも最悪の日が来た。ᗷ29の編隊が淀川に沿って上って来、ありったけの爆弾を落とすと、(中略)淀川べりのわが工場は、敵機が帰る途中、余りの爆弾を捨てていく、そのとばっちりを受けた。

引用元:『ぼくはマンガ家<1>』35ページより

手塚治虫の自伝より、昭和20年3月にあった大阪大空襲についての部分です。『紙の砦』の後半や『どついたれ』で、大阪空襲が詳しく描写されています。
『紙の砦』では脚色が多く含まれているものの、生々しい描写が目立ちます。登場人物の岡本京子ちゃんは架空のキャラクターですが、こういう子もいたのかもしれませんね。

公式サイトで当時の体験を書いた書記が掲載されていますので、ぜひこちらもご覧ください。

空腹との戦い

そのとき 彼の心には良心だのモラルだのなんて はいりこむ余地がなかった
ひたすら ただ食いたい欲望だけであった

引用元:『どついたれ(抜粋)』.pdf

この三作品を通して感じるのは、この時代の「空腹感」がいかに深刻であったか、ということです。もちろん、理不尽な暴力や自由を奪われた苦しみもありますが、「空腹感」について特につらい体験だったことが強く伝わってきます。

公式サイトで当時の体験を書いた書記が掲載されていますので、ぜひこちらもご覧ください。

手塚治虫の戦争の証言

NHKアーカイブス手塚治虫本人の証言を交えた8分程度の番組が無料で公開されています。短い番組ですので、理解を深めるためにも一度ご覧ください。

まとめ

手塚治虫が「戦争」をテーマにした作品で伝えたかったことを公式サイトでまとめています。本人の肉声も聴けるので、ぜひチェックしてみてください。手塚治虫と戦争(公式サイトへ)

書籍情報

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