知る人ぞ知る本棚

新旧問わず、さまざまなジャンルの漫画を紹介しています。あらすじや読むポイント、情報をまとめてお届け。メジャーな作品よりもマニアックな作品を中心に紹介しています。

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※ネタバレもが含まれている場合もございますので未読の人はご注意ください。

山岸凉子の名作『鬼』:救いのある怖い話

鬼 山岸凉子

この記事では、山岸凉子の『』を紹介しています。
この作品は、「許し」と「受け入れ」をテーマにし、親への憎しみと愛情を求める心の葛藤が描かれています。最後には「救い」と「解放」があり、人間の本質と救済の可能性を考えさせる名作です。
結末も含むネタバレがあります。未読の人はご注意ください。

作品紹介

あらすじ

M美大のサークル「不思議圏」のメンバーは、夏休みを利用して岩手県のお寺で合宿することになります。合宿先の寺の住職から、この辺りには酷い飢饉の記録が多く残されていると聞き興味を持った彼らは、調べることにした。

おもな登場人物

葉山あぐり

四人姉妹の末っ子。男の子が欲しかったと日頃から親に言われ続けている。“あぐり”という名前は、「飽きる」という意味の「あく」から来ている(と思われる)。

中沢純司

部長。大寺の息子。

草薙宏

新入生の雰囲気のある美青年。コインロッカーベイビーだった。部長に気のある様子を見せる。

末松

江戸時代、口減らし*1で村の大人たちに穴に閉じ込められてしまった男の子。

作品解説

『鬼』の物語構成と主要キャラクターの哀しみ

『鬼』は、過去の飢饉の時代と現代が交互に描かれる構成です。

過去の描写

飢饉の時代、村で「口減らし」のために末の子が集められ、穴に閉じ込められます。彼らは苦しみながら死んでいき、最後に残った末松は鬼となった。そして、子どもの命を奪う存在になってしまう。

現代の描写

現代では、コインロッカーベイビーだった草薙くさなぎと、親から「男の子が欲しかった」と言われ続けるあぐりが描かれています。彼らはどちらも、親からの愛情を受けられず、心に深い傷を負った哀れな子どもたちです。

親への憎しみと哀しみ

末松も、草薙くさなぎも、あぐりも、それぞれの時代で親を憎む哀れな子どもたちとして描かれています。彼らの物語は、親の愛情を求める心と、それを得られないことによる苦しみを鮮明に表現しています。

憎しみの末の救い

鬼となった末松

末松たち「口減らし」をされた子どもたちは、生きたまま穴に閉じ込められました。生き延びるために、彼らは死んだ仲間の屍を食べることを強いられます。
最後に生き残った末松は、自分たちを殺さずに閉じ込めた親を憎み、やがて「鬼」となってしまいました。彼は、皆が死んでしまえばいいと願うようになります。

許しによる救い

親に捨てられた経験のある草薙くさなぎが、末松たちの想いに共感し、憑依されてしまいます。部長の中沢は、「俺が許すから一度、親を思いっきり恨め」と末松に言いますが、末松は自分が地獄行きだと怯えます。
中沢は、末松に「仲間の屍を食べたのは自分が生き切るためであり、仲間も自分らの命を活かしてくれたことを納得している。親も自分たちが生きるために子どもを『口減らし』したのだ。だから、親を許すんだ。人を許せば、自分も許される」と説きます。こうして許された末松の魂は救われました。

『鬼』というタイトル

末松が救われたことで、親を憎んでいた草薙とあぐりも救われます。彼らは自分を許し、過去の苦しみから解放されるのです。
『鬼』というタイトルは、作品のテーマを象徴しています。鬼は人間の内なる憎しみや絶望を表し、他人を受け入れ、許さない限り、人は鬼になってしまいます。このタイトルは、許しと受け入れの重要性を強調し、読者に深い考察を促します。

同著者の他のホラー作品

[エッセイ]家族との複雑な関係と心情。私の内なる「鬼」を解放し、祖母を許すまで

感想エッセイを書きました。こちら(note)からお読みいただけます。

まとめ

この作品は非常に重いテーマを扱っていますが、最後には救いがあります。読後感が素晴らしい名作なので、安心して読んでください。

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*1:口減らしとは?・・・家計の負担を減らすために、養うべき対象を家から出して家族の人数を減らすこと。この作品では、おもに口減らしのために親が子どもたちを死なせています。