この記事は、鳥野しのの『手紙物語』を紹介しています。
現代では、メールやSNSが主流となり、手紙を書く機会が少なくなりました。しかし、手紙には特別な温かみや感情が込められており、それが人々の心に深く響くことがあります。そんな手紙をテーマにした短編集『手紙物語』は、様々なジャンルと時代を舞台にした物語で構成され、心を温める感動が詰まった一冊です。
書籍紹介
概要
『手紙物語』は、『オハナホロホロ』で知られる鳥野しのが手がけた短編集です。手紙をテーマにした5つの物語が収録されており、ジャンルも設定も多彩です。昭和の日本や、16世紀のイギリス、現代から超未来まで、さまざまな時代と場所で織りなされる物語が、読む人の心に深く染み渡ります。
収録タイトル
本書に収録されているタイトルは以下の5編です:
あらすじ
苺とアネモネ
いちことつづるの切ない恋愛物語です。いちこは積極的な少女で、つづるにキスをしようとアプローチします。しかし、つづるは頭の中で「キスをしちゃいけない」と命令され、いちこの気持ちに応えることができません。
白き使者
16世紀のイギリスを舞台に、サー・トマス・ワイアットがレディ・エリザベスに宛てた手紙を中心に展開する歴史ロマンです。使者としての使命と、その裏に秘められた想いが絡み合う、驚きの展開が待ち受けています。
日雀(ひがら)
昭和十一年の日本が舞台。盲目の少年・瀧彦と、お尋ね者の銀平の物語です。瀧彦が「父上からの手紙」を持ち続けているのを見て、銀平は彼を不憫に思い、逃げた方がいいと考えつつも、彼のそばで支えになることを選びます。
シュレディンガーの恋人
現代を舞台にしたミステリー。オークション会場で繰り広げられる謎解きの駆け引きが、まるでチェスや将棋のような緊張感を醸し出します。エミリーとミス・オースチンの対決が織りなす、驚きのラストが魅力です。
星の林に月の舟
宇宙の果てで展開されるSF作品。主人公アミが、失われた故郷の友との約束を果たすために参加し続ける同窓会。その切なさと友の温かさが、読む者の心を揺さぶります。
作品解説
ファンタジーの中に宿るリアリティ
『手紙物語』では、ファンタジーやSFといったジャンルの枠を超えて、どの作品にも普遍的な感情が描かれています。鳥野しのの筆致は、どこか懐かしく、でも新鮮な世界観を生み出しています。特に、「日雀」のように日本の昭和を舞台にした物語では、登場人物たちの静かで純粋な心情がしっかりと描かれています。
多様な時代設定とジャンル
鳥野しのは、時代や場所を自由に行き来し、さまざまな物語を紡ぎ出しています。16世紀のイギリスから超未来の宇宙まで、手紙という共通のテーマを通じて、異なる世界観を見事に描き分けています。「シュレディンガーの恋人」では、ミステリーの中で手紙が重要な鍵となり、読者を惹きつける展開が待ち受けています。
繊細なキャラクター描写
鳥野しのの作品では、キャラクターたちが生き生きと描かれており、その姿が読者の心に深く残ります。特に、「白き使者」で描かれる白き使者の気高い姿や、「星の林に月の舟」のアミの決意は、読者に強い印象を与えます。
羽海野チカに似ている?鳥野しのの作風とその背景
鳥野しのは、羽海野チカの元アシスタントで、もともと友人関係だったそうです。
お二人のマンガの趣味は似ているようで鳥野しのは、高校時代に手塚治虫や萩尾望都の作品を模写していたそうです(𝕏で直接、お話を聞けました)。羽海野チカは、萩尾望都との対談の本で手塚治虫、萩尾望都に影響を受けたことを語っています。
レビューで「鳥野しのは、羽海野チカとタッチが似ている」とよく書かれる理由は、二人の影響を受けた作品が近かったためだったんですね。
まとめ
『手紙物語』は、手紙をテーマにした5編の短編集で、鳥野しのが描く多彩な世界観と深い感情が詰まった一冊です。ジャンルや時代を超えて、どの物語も心に残るものばかりで、手紙というシンプルなテーマが持つ豊かさを再確認させられます。現代のデジタル時代だからこそ、手紙に込められた想いの温かさが心に響く、そんな作品です。ぜひ、一読してみてください。