諸星大二郎の『無面目』は、中国神話と前漢時代の歴史を交錯させ、哲学とエンターテイメントが巧みに融合された作品です。本記事では、作品の背景や登場人物、物語の魅力を解説していきます。巫蠱の禍にまつわる壮絶な人間ドラマを描いた、壮大で思索的な世界へご案内します。
作品紹介
あらすじ
『無面目』は、世界のはじまりの時代から存在する思索の神「混沌」が、顔を与えられたことで人間界へ降り、様々な経験を通じて人間に変わっていく物語。純粋な存在が欲望や煩悩に囚われて堕ちていく姿を描き、彼が「死を得て人間になる」までの顛末を描きます。舞台は前漢の武帝時代(紀元前141~前87年)、巫蠱の禍を背景に、人間社会の腐敗や謀略に混沌が巻き込まれていきます。
おもな登場人物
混沌
顔のない神「無面目」。東方朔に顔を描かれたことで人間界に興味を持ち、人間のような欲望に取り憑かれる存在へと変わっていく。
欒大(らんだい)
武帝に仕えていた五利将軍。混沌の顔のモデルで、陰謀の標的になる小心者。
麗華
欒大の妾。混沌が人間社会で関係を築く女性で、やがて妻となります。
こんな人におすすめ
- 中国神話や古代中国に興味がある方:本作は、神話や古代中国史が独自に解釈されて織り込まれています。歴史に詳しくなくても楽しめるだけでなく、知識がある人にとっても新たな驚きや発見があると思います。
- 哲学的な物語に惹かれる方:哲学に興味がある方には物語の中で思索を重ねる楽しみがあります。
- 人間の本質に迫る作品が好きな人:この作品は、歴史背景を重視しつつも人間の普遍的な感情に焦点を当てた描写が秀逸です。
著者について
諸星大二郎は1949年生まれ。1970年、「COM」に掲載された『ジュン子・恐喝』でデビューしました。彼の独自の世界観と緻密なストーリーテリングは、多くの漫画家やクリエーターに影響を与え続けています。代表作には『妖怪ハンターシリーズ』や『西遊妖猿伝』などがあり、これまでに数々の賞を受賞し、幅広い評価を得ています。
作品解説
古代と神話が織りなす壮大な叙事詩
本作は、古代中国の神話や歴史をベースにした物語が展開します。登場するキャラクターは、神々や伝説の英雄たちと共に生き生きと描かれており、神話の要素が物語に重厚な奥行きを与えています。作品の中では、神話の出来事が現実の出来事とリンクし、時空を超えて読者を魅了する壮大な叙事詩が描かれます。
哲学的テーマが心を揺さぶる
物語には人間の欲望と罪、運命に抗うことの意味など、深い哲学的テーマが含まれています。混沌が自らの内面と向き合う姿は、人間の本質を問いかけます。善悪の相対性や魂のあり方などを考えさせるシーンが多く、思索にふける喜びを感じられる作品です。
説明が行き届いた歴史と文化のガイド
古代中国の歴史的背景が詳細に描かれており、作中で丁寧に説明されているため、初めて触れる方でも安心して物語に没入できます。学びとエンターテインメントが見事に融合した内容は、知識が自然と身に付く工夫がされてて安心して読めむことができます!
諸星大二郎の作品の中でも完成度が高い一作です。ぜひ手に取ってみてください。
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用語解説
この記事でも出てきた用語の解説です。
混沌
元ネタは『荘子』に登場する「渾沌」。渾沌は目、鼻、口、耳の七つの穴(七竅)を持たず、その七竅を開けられることで死んでしまいます。
参考URL:そこには三人の帝がいた…:東京新聞
巫蠱の禍
巫蠱は、木製の人型の呪具です。日本のワラ人形に似たものです。その巫蠱をめぐって、社会に大きな混乱が起きた事件のことです。
参考URL:巫蠱の禍 - Wikipedia