あの童話、実はこんな話だったのかも
グリムの原典を骨格に、諸星大二郎が再構築したブラックメルヘン『グリムのような物語 トゥルーデおばさん』『スノウホワイト グリムのような物語』。怖いというより、奇妙。奇妙というより、忘れられない物語。本記事では作品の見どころ、特徴を未読者向けに解説しています。
作品紹介
トゥールデおばさん
あらすじ
“トゥルーデおばさんの家”には近づくな――そう言われるほど、少女の好奇心はかえって膨らんでいった。だが、両親の反対を押し切り、ついにたどり着いたその家には、死や悲しみを集める青い男、憎しみの種をまく黒い男、血まみれの斧を手に帰ってくる赤い男がいた。そして、この家を支配するおばさんの正体とは何か。
書籍情報
●巻数表記は、Kindle版や文庫版など、入手しやすい流通形態を基準としています。
スノウホワイト
あらすじ
修道院の霊廟に安置された棺の中で、永遠の眠りについた美しい令嬢が静かに横たわっている。彼女を見た男は一瞬で恋に落ち、衝動的に棺ごと自分の城へ運び去る。そこから物語は、予想だにしない猟奇的な方向へと急展開していく。
書籍情報
●巻数表記は、Kindle版や文庫版など、入手しやすい流通形態を基準としています。
こんな人におすすめ
本作は、以下のような方に特におすすめです。
- グリム童話が好きな人:知っている物語が全く異なる顔で現れる驚きと、原作との読み比べが楽しめます
- ホラーが苦手な人:流血やスプラッターではなく、じわじわとした不気味さと不条理な雰囲気が中心なので、怖さの敷居が低めです
- 短編をさくっと読みたい人:1話ごとに完結しているため、隙間時間でも無理なく読み進められます
- 諸星大二郎の入門として読みたい人:幻想・怪奇・ユーモアと作風の幅が凝縮されており、作家性をまとめて体験できます
- 大人になってから童話を読み直したい人:子どもの頃とは違う視点で、物語に潜む閉塞感や不条理さを味わうことができます
著者について
諸星大二郎(もろほし・だいじろう)
(1949‒)長野県生まれ。1970年にデビューし、『生物都市』で手塚賞入選。ホラーやSF、歴史、ギャグまで幅広いジャンルを手がけ、独特の作風で多くのクリエーターに影響を与えている。代表作に「妖怪ハンター」シリーズや『暗黒神話』などがあり、小説作品も執筆。数々の主要漫画賞を受賞している。
作品解説
『グリムのような物語』とは│諸星大二郎版グリム童話
“幻想漫画の巨匠”が独自解釈した短編集
幻想漫画の巨匠・諸星大二郎がグリム童話を独自にアレンジしたブラックメルヘン短編集シリーズです。2冊は出版社が異なり、ほぼ同時期に刊行された姉妹編です。特に「ラプンツェル」は両冊に別バージョンで収録されており、読み比べが楽しめます。短編形式なので気軽に読め、諸星大二郎の幻想世界を凝縮して味わえる入門編としてもおすすめです。
『トゥルーデおばさん』の収録内容
表題作「トゥルーデおばさん」をはじめ、全8編が収録されています。本作は文化庁メディア芸術祭マンガ部門の審査委員会推薦作品にも選ばれています。
「Gの日記」
広大な屋敷に暮らす少女が、日記形式で日常を淡々と綴ります。針のない時計、地下室の秘密など、奇妙なものが少しずつ姿を現しますが、語り口はどこまでも平坦です。
「夏の庭と冬の庭」
夏と冬の庭が隣り合わせる不思議な屋敷を舞台に、物語が描かれます。魔法的な設定でありながら、意外な結末で肩の力が抜けるような読後感があります。
「赤ずきん」
原作の筋をなぞりながらも、どんでん返しと緊張感ある演出が加わります。森で出会う背の高い中年男性の存在感が際立ちます。
「鉄のハインリヒ または蛙の王様」
グリムの「蛙の王様」を原作に、従者・鉄のハインリヒの視点を織り交ぜた一編です。象徴的な描写と幻想性が強く不条理さが際立ちます。
「いばら姫」
原作から大きく離れ、現代を舞台にした異色作です。青年が「いばらの中で眠る女性」を起こそうとする物語で、閉塞感や心理的なテーマが現代ドラマとして描かれます。
「ブレーメンの楽隊」
原作の強盗(山賊)側の視点から描きます。凶悪な顔つきで描かれた動物たちのビジュアルと、逆転の発想によるユーモアが混在する一編です。
「ラプンツェル」
塔に閉じ込められた少女の閉塞感と内面の彷徨を、夢と現実が交錯するような幻想的な筆致で描きます。薄い恐怖が積み重なる灰色の読後感が特徴で、深みのある一編です。
『スノウホワイト』の収録内容
表題作「スノウホワイト」をはじめ、全12編収録されています。『トゥールデおばさん』の作品群よりもSF風味やミステリ要素がやや強く、バラエティ豊かなのが特徴です。ややこちらの方が後味が悪い話が目立ちます。
「七匹の子やぎ」
研究所のような場所に幽閉された7人の少年たちをめぐる物語。謎の怪生物が現れ少年たちを襲うSF風の展開。
「奇妙なおよばれ」
血入りソーセージを名乗る相手から食事に招待された男の話。相手は男をレバーソーセージと呼び、立場の逆転がシュールでホラーな雰囲気。
「漁師とおかみさんの話」
貧しい漁師が不思議なヒラメを逃がしたことで願いが叶えられるが、おかみさんの欲が次々とエスカレートする様子を描いた静かな寓話風の物語。
「小ねずみと小鳥と焼きソーセージ」
小ねずみ、小鳥、焼きソーセージの3者が協力して暮らす日常が、関係のバランス崩壊とともにコミカルかつナンセンスに進む。
「ラプンツェル」
塔に閉じ込められた少女の長い髪をめぐる話。SF的な設定が加わり、内面的な閉塞感と不条理が融合した幻想的な内容。
など。
諸星大二郎版グリムの特徴
不条理×幻想×象徴「ブラックメルヘン」
本作のジャンルを一言で表すなら「ブラックメルヘン」あるいは「幻想怪奇ファンタジー」が最も近い表現です。グロテスクなスプラッターではなく、「得体の知れない怖さ」「じわじわとくる不気味さ」「悪夢的な雰囲気」が全編に漂います。怖いというよりも「奇妙」と感じる読者が多く、ホラーが苦手な人でも比較的手に取りやすい作品です。
原作グリムからの逸脱と再解釈
諸星大二郎は原作をそのまま再現するのではなく、登場人物の視点を変えたり、現代的な心理描写を加えたり、象徴的なキャラクターを新たに配置したりすることで、原作とは異なる読後感を生み出しています。原作グリムを知っていると比較する楽しみが増し、知らなくても不条理な物語として楽しめる構成になっています。
本書をいま読む理由
大人が読むからこそ刺さる
誰もが知っているはずの物語が、諸星大二郎の手にかかると全く別の顔を見せます。知っているからこそ裏切られる展開、予想を外す視点の転換。その意外性が読み応えになっています。さらっと読めて、しかし簡単には忘れられない作品群です。
普遍的なテーマが現代にも通じる
好奇心や反抗、閉塞感、日常に潜む邪悪さといったモチーフは、時代に関係なく新鮮です。グリム童話の残酷さを諸星流に再解釈した不条理さが、静かに心に残ります。再読に耐える作品であり、時間が経っても色あせません。
関連リンク
書籍詳細ページ
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