旅を続ける弟と、追う姉の違和感
「世にも奇妙な物語」ドラマ化作品を含む全4編を収録した今市子の短編集『砂の上の楽園』。妖しさ、切なさ、不条理。今市子という作家の核が、ここにあります。本記事では作品の見どころ、特徴を未読者向けに解説しています。
作品紹介
あらすじ
砂漠の孤立都市へ送り込まれた男は、王の暗殺という密命を帯びていた。閉ざされた街の謎が少しずつ明かされる。表題作「砂の上の楽園」ほか3編。
書籍情報
●巻数表記は、Kindle版や文庫版など、入手しやすい流通形態を基準としています。
こんな人におすすめ
本作は、以下のような方に特におすすめです。
- 静かで余韻のある作品が好きな人:行間を味わう読書体験ができます。
- ホラーは苦手だけど怪奇・幻想ものに興味がある人:品のある不思議さが楽しめます
- 今市子を初めて読む人:今市子の作風を知るのに最適です
- 『百鬼夜行抄』や「岸辺の唄」シリーズが気になっている人:どちらのシリーズにも通じる作風を1冊で体験でき、購入前の判断材料になります
- 短編でさらっと読みたい人:1編ごとにまとまっており、隙間時間でも読めます
著者について
今市子(いま・いちこ)
富山県出身の漫画家。1993年にデビューし、代表作『百鬼夜行抄』は妖怪をテーマにした作品で、文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。ホラー、BL、ファンタジー、エッセイなど幅広いジャンルで活躍し、愛鳥家として文鳥を描いたエッセイ漫画『文鳥様と私』も人気です。
作品解説
『砂の上の楽園』とは│今市子入門書
寓話形式の幻想中編の表題作
砂漠の中心に孤立した都市国家を舞台に、国王暗殺の密命を帯びた男の潜入を軸に物語が展開します。道中で出会った女性とともに足を踏み入れた街には、豊かなオアシスと女神の伝説が息づいています。閉ざされた世界の謎が主人公の視点を通じて少しずつ明かされていく構成で、ファンタジーというより寓話に近い幻想譚です。
喪失と不思議が交わる物「僕は旅をする」
旅行に出かけた弟が事故死したと連絡が入った。しかし彼は予定通りに旅を続けていたらしい。姉が弟の足跡をたどるうちに、ある事実が浮かび上がっていきます。静かで幻想的なトーンの中に、喪失の切なさと不可思議な余韻が残る一編です。本作は「世にも奇妙な物語」でドラマ化もされており、原作の繊細なタッチが映像化に向いていたことがうかがえます。
そのほかの収録作
「夜の森の底に」と「雨になればいい」は、ホラー・オカルト系の色合いが強い作品です。いずれも不思議な出来事を軸に据えながら、その核には人間の感情の揺らぎが置かれています。表題作とは異なるアプローチながら、今市子作品に共通する「ひんやりとした喪失感」が全編を貫いています。
『砂の上の楽園』の特徴
描き方の特徴
必要以上に語らないのが、この作品の大きな魅力です。感情や状況を説明しきらないことで、読者に行間を委ねています。それが、物語に独特の密度と深みを与えています。
1冊で作風の全体像をつかめる
ファンタジー・ホラー・オカルトと異なる方向性の作品が一冊に収まっており、妖しさ・切なさ・不条理といった今市子の作風の核を短編の形で読めるのが大きな特徴です。
今市子入門として読む理由
次に読む作品への道標になる
今市子作品の入門として適した一冊です。一冊で作風の輪郭がつかめます。読んでホラーやオカルトの空気に惹かれたなら『百鬼夜行抄』。東洋的な幻想の余韻を求めるなら「岸辺の唄」シリーズへ。次に読む作品への道筋まで示してくれる点も、この本の強みです。
読むときの注意点
表題作「砂の上の楽園」については、他の人の作品と類似を指摘する声があります。結末も浮いた風に感じられるかもしれません(※今市子作品で、こういう結末は珍しい)。今市子作品内でも評価の別れる作品です。ですが、今市子らしい東洋風ファンタジーの魅力はしっかりと表れており、作風をつかむには十分な一編です。
関連リンク
書籍詳細ページ
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