この記事は、手塚治虫の『鳥人大系』を紹介しています。
この物語は、進化した鳥が人類を支配する過程を描いた短編連作です。『猿の惑星』の鳥版とも言えるこの作品は、大人向けで暗く重たいSFです。
この記事は結末を含むネタバレが含まれています。未読の方は、ご注意ください。
書籍紹介
全体のあらすじ
鳥類が知能を獲得し、地球の支配権を握ります。しかし、新たな支配者である鳥人も、人類と同じく退廃の道を辿ることになっていく。ーーこの物語は全19章の短編連作です。
収録タイトル
第1巻
第2巻
- 第十三章 ミュータント
- 第十四章 ファルコ・チンヌンクルス・モルツス
- 第十五章 赤嘴党
- 第十六章 カモメのジョンガラサン
- 第十七章 ブルー・ヒューマン
- 第十八章 ラップとウィルダのバラード
- 第十九章 ドゥブルゥドへの査定委員会懲罰動議
作品紹介
あらすじ
第三章 パイロマニアック・マグピー
男が緊急特別番組のために局へ駆けつけると、カササギの大群が都市を荒らしながら日本に向かっているというニュースを聞く。
日本中がアタフタしている間にもその鳥たちは、無差別に放火していくことをやめない。手の打ちようがなくなった日本政府は、カササギのために日本を差し出すことに決める。
第六章 トウルドス・メルラ・サピエンス(ブラック・バード)
南スイスの小さな村に、1人の老人と小鳥のリズがいました。村では鳥たちが人々を襲い、村人は皆命を落としていました。しかし、目も耳も不自由な老人はその恐ろしい事実に気づいていません。リズも「人間を抹殺せよ」という命令を受けていましたが、老人を深く慕っていたため、従うことができていませんでした。
リズはせめて老人が安らかに死ねるようにと考え、仲間たちにお願いしました。老人のために、安らぎを与える歌を歌って欲しい、と。
第十二章 ポロロ伝
鳥人社会で階級差が明確になり、下層の鳥人たちの中で生きる意味に疑問が持たれるようになります。聖人ポロロは各地を巡り、鳥人たちが人間の生活様式を模倣するのを止めるよう教えを布教しました。
ポロロの教えが広まると、支配階級は彼を弾圧し始めます。それでもポロロは信念を持ち続け、教えを広めることをやめませんでした。
第十五章 赤嘴党
鳥人社会では、同じ鳥人を食べることが大罪とされていました。でも、金持ちの鳥人たちは、残忍な本能を満たすために、ひそかに同じ鳥人を食べていました。そのようなことをする秘密グループの捜査をするモッズ警部の妻が、ある日、本能に負けて近所の鳥人を殺して食べてしまったと言うのです。捕まれば自分の面子はもちろん、妻も重罪人となってしまう。
妻を密かに逃がすが、妻は秘密グループのメンバーだったことを理由に秘密グループに脅されることになってしまった。モッズ警部は、彼女を守るために秘密グループに協力し、結果的には自分の命も含め何もかもを失ってしまった。
第十七章 ブルー・ヒューマン
鳥人の少年が庭園にいた透けた人間のミチルに連れ去られました。ミチルは少年を「幸福の鳥」としておばあさんに見せ、二人は少年に幸福かどうかを尋ねました。少年が「幸福ではない」と答えると、ミチルとおばあさんは「人間と同じだ」と言って少年を食べてしまいました。
実はこれは少年の夢で、ミチルは大昔に滅んでいた人類だったのです。
幸福?そんなものありゃしないさ
だがそれを探し続けるのが生きがいってものさ
引用元:大都者版『鳥人大系』310ページより
第十九章 ドゥブルゥドへの査定委員会懲罰動議
ある星の博士、ドゥブルゥドは、鳥人族出身で、地球を鳥類の支配下におくことを主張した人物です。しかし、鳥人の退廃が目立つようになり、特別査定委員会では、彼に対する懲罰動議が提出されました。そして、新たな支配者としてゴキブリ族がふさわしいと提案され、物語は閉幕します。
『鳥人大系』は、手塚治虫によるSF名作の再構築
オマージュ元は3つのSF小説
『鳥人大系』は、3つのSF小説を手塚風にアレンジしたものです。オマージュ元になったSF小説を簡単にご紹介します。
ブラッドベリのおなじみ「火星年代記」と、シマックの「都市」(中略)漫画でひとつ、あのようなエピソードの連作形式で、超人類の歴史をえがきたいと思っていたやさきだった
引用元:虫ん坊 2013年3月号
『猿の惑星』と、(中略)『火星年代記』。2つの名作SF小説を、手塚風にサンプリングしたのが全19章からなる『鳥人大系』だ。
引用元:手塚治虫ぴあ60ページ
『火星年代記』
29編の短編で一つの大きな物語にした小説です。『鳥人大系』も同じ形式で、19編の短編を集めて一つの長編としています。いわゆる短編連作です。
『都市』
人類が地球を離れたことで、地球の支配はかつて人間が開発し、優秀な頭脳を持つようになった犬族になる。人類が神話となるほど時は過ぎた頃、犬族は古代の文献から人類の再構築を図る。
『猿の惑星』
遠い宇宙から地球に戻る途中、主人公がたどり着いたのは、猿が人間を支配する惑星だった。猿は高い知能を持ち、人間は知能が低く、家畜化されていた。
[エッセイ]小学生だった私と、鳥の卵
『鳥人大系』を題材にしたエッセイを書きました。こちら(note)からお読みいただけます。
まとめ
『鳥人大系』は、人類全体の問題を描いています。この作品は古いですが、そのテーマは今も変わらず、そしてこれからも続くであろう問題を描いています。たとえば、種族間の対立、外見に基づく差別、そして貧富の格差などがその例です。一読の価値あり!
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