この記事は、藤子・F・不二雄の短編作品『ミノタウロスの皿』と『カンビュセスの籤』を紹介しています。 幼い頃にアニメを観てトラウマになった経験がある人は、結構いるのでは?藤子・F・不二雄作品の大人向けでブラックなSF短編群の代表作です。
この記事は、結末のネタバレも含んでいます。未読の人は、ご注意ください。
作品紹介①『ミノタウロスの皿』
あらすじ
宇宙船が故障し遭難した男は、地球型の星に緊急着陸する。その星はウスという種族(見た目が人間の種族)を、家畜にするズン類(見た目は、牛の種族)が支配する星だった。
そこで、ミノアという少女に助けられ救助されるまでの数日間を過ごす。
おもな登場人物
主人公
地球人。宇宙船が故障し、ただ一人生き残った。
ミノア
ズン類の食用として育てられた家畜の種族。「ミノタウロスの大祭」で「血統のすぐれた肉用種」として、ズン類に食べられる役目が決まっている。それを最高の栄誉だと誇りに思っている少女。
作品紹介②『カンビュセスの籤』
あらすじ
主人公サルクは砂漠を放浪中に、エステルの住む場所にたどり着いた。言葉は通じないが、エステルはサルクに食料を分け与えます。二人はしばらく共に過ごしますが、やがて食料が尽きてしまった。その頃、エステルの翻訳機の修理が成功し、サルクが時空の乱れで未来に迷い込んだ古代人であることが判明する。
おもな登場人物
サルク
紀元前500年代、サルクは遠征に参加。遠征軍に飢餓が襲い、兵士たちは籤で当たった1人を生きるために食べることにした。そして、サルクは籤に当たってしまい、生きたい一心で逃げ出した。
エステル
終末戦争後の地球の生き残り。自給は不可能な環境下で、異星からの救援を待っていた。1万年ごとにの籤で選ばれた同胞を食べて、生き延びた最後の生存者。
両作品を比較!
ヒロインの共通点と相違点
2人のヒロインの共通点
どちらも「食べられる」対象あり、最終的には食べられてしまいます。
ミノアの場合
ミノアは、外見は人間に似た種族で、食用肉として育てられた。彼女は、文明が未発達の星の住人。星の支配者であるズン族に食べられることを疑問にも感じず、それどころか「栄誉」であると大喜びしている。
主人公は「残虐な風習」だと必死にミノアを助けようとしますが、ミノア本人どころか、だれも主人公の訴えに耳を貸しません。
主人公と、その星の常識。根本的な考え方や、価値観が違うせいで、言葉が通じるのに、話がまったく通じないのです。それを主人公は❝奇妙な恐ろしさ❞だと表現した。
植物連鎖の一環にすぎんのですよ。ウスは草を食いズン類はウスを食い死ねば土にかえって草をそだてる。うらみっこなしでしょうが。
引用元:藤子F不二雄[異色短編集]1・174ページより
エステルの場合
エステルは、23万年間生きた。23回冬眠し、食べた同胞は23人となる。エステルが最後に食べたのは、ヘンリーおじさん。きっと、エステルの血縁者だろう。
食料が尽き、また新たに冬眠するため、どちらか一人が生き残るために食べられなければいけないのだとエステルは、サルクに籤を提案する。
サルクは、その提案を拒否する。だが、エステルは「義務」があるのだと言う。地球生物の再生のために一人でも生き延びねばならないのだと主張するのだ。
エステルは、嬉しそうに自分を「ミートキューブ」に加工する手段をサルクに伝える場面で、物語は終わります。
この世にありたいということ。ありつづけたいということ。ただそれだけ。(中略)一人でいいの一人生きのこれば充分なの。
引用元:藤子F不二雄[異色短編集]3・141ページより
残酷な選択をさせるヒロイン
ミノアの場合
ミノアは、死生観・価値観の違い。環境の違い。生きる役割の違い・・・という理由がある。残酷だが、仕方のないと思える。あくまでミノアが「食べられること」を残虐だと思うのは主人公だけだ。それにラストでは、主人公が泣きながらステーキを食べているのだから皮肉な終わり方だ。
エステルの場合
エステルはどうか?23万年間生きた。孤独や、苦しみがあっただろう。作中で苦しそうな表情を見せる。
「義務がある」と言っても、もうその必要性などあったのだろうか?きっと今までに同胞の誰かが疑問を声にしたはず。エステル自身も、それを自問自答を繰り返したようだ。
サルクは、過去から来た関係のない人物。彼女の行為は、サルクに自分の「義務」とやらを押し付けたに過ぎない。エステルには、今までの経緯からやめられない状況でもあったのだろう。
人を食べる以外、食べ物が手に入らない世界。ならば、2人で死ぬまで生きるという選択があっても、いいのでは無かったのか?そんな疑問が浮かんでしまう。
だが、23万歳以上と言えどエステルの生活年齢は17歳。どんなにつらい23万年間を送ったのだろうか?彼女の選択に疑問を覚えるが、同情はしてしまう。
何も分からない17歳に「未来」を押し付けた大人も、また残酷だ。
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この両作品は、藤子・ᖴ・不二雄ファンでも特に人気のある作品です。後味の悪い作品ですが、「命」や「死生観」、色々と考えらされる名作ですよ。